“驚きを伴う喜び”を
届けられる人を増やしたい。
UI / UXデザイナーを育成する
プラットフォームの実態

Delight U 松村・上田・石坂

DeNA Creators Interview!今回お話を伺うのは、UI/UXのオンラインスクール「Delight U(デライトユー)」の企画・運営に携わっている、クスール 代表の松村慎さん、DeNA デザイン戦略室 室長の上田龍門さん、クリエイティブディレクターの石坂昌也さんです。
なぜ、DeNAがUI/UXのカリキュラムやツールを無料で提供しているのか?「Delight U」 を立ち上げたことでどのような変化があったのか、プロジェクトの立ち上げに携わった3名にお話を伺いました。

Interviewee Profiles

松村 慎 (Matsumura Shin)

株式会社クスール 代表取締役
2002年カナダバンクーバーから帰国したのち、株式会社バスキュールにFlashデベロッパーとして勤務。2004年にFlashのActionScriptを中心に、ものづくりを教える教室クスールを設立。2006年春から京都精華大学デザイン学部非常勤講師としても勤務。

上田 龍門(Ueda Ryumon)

DeNA デザイン戦略室 室長
2012年にDeNAに中途入社。クスールでWeb制作技術を学び、料理人からフロントエンドエンジニアとしてキャリアチェンジ。その後、DeNAに転職。現在は、デザイン戦略室の室長として、組織のマネジメントやブランディングを行っている。

石坂 昌也(Ishizaka Masaya)

DeNA デザイン戦略室 クリエイティブディレクター
2015年にDeNAに中途入社。自動車、新規事業、ゲーム事業、採用、スポーツ事業など幅広い分野で総合ブランディング、クリエイティブディレクション、プロモーションなどを担当。「Delight U」の発案者であり、オンラインスクール全体の設計を担当する。

Delight U(デライトユー)とは

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日本は、UI/UXデザイナー不足。
いないなら育てる、業界を活性化するために
立ち上がった「DelightU」

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なぜDeNAが、「DelightU」 のようなUI/UXのオンラインスクールを運営することになったのでしょうか。立ち上げのきっかけを教えてください。

石坂さん: 1年程前、僕がDeNAのリクルートサイトの監修を任された時に、過去の事例や今年どのような人を採用したいのか採用担当者にヒヤリングしたのですが、その時にDeNAのクリエイター採用は“合格率が低い”ということを知ったんです。“合格率が低い”ということは、求めている能力を持った人があまり応募してきていないということ、面接官の稼働率が上がり採用活動に負荷がかかっていることになります。
そして、1番大きな課題だと感じたのは、採用したいクリエイターの人口、特にUX/UIデザイナーが業界に増えていないということでした。もっと建設的に、数年先を見越して採用計画を作っていかないと、来年以降もどうなるかわからないと思ったんです。

日本はUI/UXデザイナー人口が少ないんですね。それがなぜ、オンラインスクールの立ち上げに繋がったのでしょうか。

石坂さん: UI/UXデザイナーの人口が少ないのは、UI/UXの教育メソッドが確立されていないからだと感じました。Webが流行り始めた時も、UI/UXに注目が集まり始めた時も、技術を教える学校はほとんどありませんでした。UI/UX分野で有名なクリエイターが現れると、やっと世の中に注目されはじめて、専門の授業や学科を開設する学校が増えてくるのですが、そこまで待っているとニーズに比べて数年ほど発達が遅れてしまいます。
UI/UX系のイベントが最近増えてきましたが、技術が学べる環境は未だに多くありません。
なので、うちで創ろうと思ったんです。

学べる機会をデザイナー又はデザイナー志望者に提供することで、会社のUI/UXのブランドイメージが向上し、人口も増え、業界全体の活性化に繋がると思いました。
また、学びの場を提供したことで、縁があればDeNAで働く人が出てくるかもしれませんし、UI/UXに関心のある人が、DeNAに関心を持って集まってきてくれる関係づくりを、このプロジェクトを通して行えたらと思いました。

「Delight U」というプロジェト名ですが、どういった意味が込められているのでしょうか。

石坂さん: DeNAのコーポレートアイデンティティーに「Delight and Impact the World〜世界に喜びと驚きを〜」というメッセージがあるのですが、そのメッセージの一部である「Delight」という言葉を使いました。DeNA内では「Delight」という言葉を「驚きを伴う喜び」と解釈しているのですが、そういったDeNAのアイデンティティーを「Delight U」にも込めて、驚きを伴う喜びを生み出す、技術・知識を持ったデザイナーを、将来的に育成できたらと思ったんです。

「Delight U」のロゴデザインは、どのようにして作られたのでしょうか。

石坂さん: ロゴは、デザイナー兼イラストレーターの大賀光洋さんに依頼しました。大賀さんはとてもクリエイティビティのある方で、普段はロゴのデザインよりも、イラストやアートの制作を得意とされていている方なのですが、私たちはあえてイラストやアートといった作品を描く能力が高い方に依頼しました。
デザイナーがデザインするというよりも、画家さんがロゴをデザインするくらいでないと、クオリティーや密度などで差別化されたものが出来ないと思ったんです。
作っていただいたロゴには様々なモチーフが組み込まれているのですが、それぞれに意味があって、脈々と続く学習をイメージした伝統的な古代の柱、成長をイメージした階段、驚きや喜びの表現した花や蝶など、この「D」という文字の中に様々な意味を込めたモチーフを合わせて、循環している様子を表現してもらいました。

世間のトレンドとしてシンプルなものが流行っていることは理解しているのですが、まずシンプルにするより、教える側も熱量があり、教わる側も熱量がある状態を目指して、クラフトマンシップを感じる重厚なものを作ることを意識しました。
ロゴにはかすれているような線が沢山入っているのですが、これは大賀さんがエッチング(銅板に金具で掘って出す味)を真似して、手描きで表現してくれています。そういった細々とした作業をやってくださったおかげで、ロゴに厚みと個性がが出ています。

Delight Uの中間発表会の様子。

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「Delight U」を開催する上で、なぜクスールさんと一緒に運営することになったのでしょうか。

上田さん: 松村さんとは昔からお知り合いだったんですよね。僕が料理人として働いていてWebスキルがなかった頃に、技術を身につけるために通っていたのがクスールでした。そこで松村さんと出会い、クスールで勉強したおかげで、その後Web制作会社に就職でき、転職して今、DeNAで働くことができています。

石坂さん: 実は僕ももともと知り合いで、上海で働いていた頃にシェアオフィスでご一緒していました。

上田さん: 「Delight U」を立ち上げたいとは思っていましたが、そもそも教育の運用フローがわからずノウハウもないので、教育事業に強い会社さんと協力して運営出来たらと考えていました。そこですぐに頭に浮かんだのがクスールで、自分自身が学んでいたこともあったので信頼でき、学びの場づくりを長く行っている会社だったので、クスールに共同運営をお願いしようと思いました。

石坂さん: そもそも、“良いデザイナー”と“良い先生”は能力が全然違うと思っていて、社内には何百万ダウンロードされているプロダクトを作ったデザイナーはいますが、その人たちが教材を作れるか、レベルの違う様々な人たちに対して情報を選定して教育できるのかというと、出来ないと思っています。教育とデザイン、レベルの高いものを提供するには、それぞれ専門性に合わせたプロが必要だと思ったんです。
教育のレベルが低くなると改めて創る意味が薄れてしまうので、ベストに近いものにしようと頑張りました。

松村さんは「Delight U」の依頼を受けてどのように思いましたか。

松村さん: デザインという枠組みで、様々な企業さんでワークショップや新人研修を行ってきたので、自分たちであれば出来ると思いましたし、何より面白そうなプロジェクトだと思い、お仕事を受けることにしました。
オンラインスクールで学びを提供するのは初めての試みだったので、住んでいる地域関係なく学びを提供するにはどんな方法があるか、運営チームでじっくり考えました。最初は、教育用のビデオやシステムを作ろうという案が進んでいましたが、システムを作るとお金がかかりすぎるので、最終的にはチャットツールを導入して、運用に力を入れることにしました。

石坂さん: 一概に通信教育が悪いとは言えないですが、完全にオンラインだけにしてしまうと生徒がドロップアウトしてしまう確率が著しく増えるので、基本的にはオンラインなんですが、講師とチャットで自由に連絡をとることが出来て、中間発表会や最終発表会など、参加者が定期的に集まって顔を合わせる機会をつくりました。

教材やプログラムを作る上で意識した点や、こだわった点を教えてください。

松村さん: 参加者が50人いたので、手厚くフォローする体制と、講師と生徒がしっかりコミュニケーションをとれるような体制の設計には、すごくこだわりましたね。

石坂さん: 上達しないと意味がないので、普通3週間で教えるような内容を、あえて1週間に詰め込んで教えて、どれだけの人がついてきてくれるか熱量を見ていました。「Delight U」の参加者を募集した時も、その人がどこの誰かということよりも「なぜ、UI/UXを学びたいと思ったのか」その項目で書かれた作文を見て、熱量を見せてもらって、参加者を選定しました。約280名の応募があり、そこで選ばれた50名が参加していたのですが、どんなにハードな課題でも多くの方がついてきてくれました。

松村さん: 資料づくりにも力を入れましたね。1冊の本になるくらいの教科書レベルの内容だったと思います。デザインを教えるスクールということもあり、資料一つにしても文字詰めや配置などデザインにも気を使い、InDesignを使って制作しました。

応募時点でデザインスキルがない人も採用していたのでしょうか。

石坂さん: そういう方もいたと思います。

上田さん: 参加者の地域や年齢も様々で、沖縄から参加している人もいましたし、最年少は18歳、最年長だと55歳の方が参加していましたね。

プロジェクトを派生させ
UI/UXに触れる人を一人でも多く増やす。

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「Delight U」を実施してみていかがでしたか。

松村さん: オンラインだけど、オンラインっぽくないスクールをつくれたのが良かったと思います。私たち運営チームの強い思いに参加者の方々は応えてくれて、想像以上に積極的に取り組んでくれていました。半分以上の方が、最終作品提出までついてきてくれて嬉しかったですね。

上田さん: 社会人で仕事しながら勉強して課題を提出するのはなかなか大変だったと思います。仕事を終えた後、夜に勉強して、土日に制作して提出して……そういったハードな生活でもついてくる、熱量のある人が多い学びの場がつくれたのは、すごく良かったと思っています。

石坂さん: 無理やり勉強させるのではなく、やりたい人に学びを提供する環境をつくれたのが、とても良かったですね。今回募集したことでUI/UXを学びたいという人が日本にも多くいることがわかったので、今後も展開して継続していく価値があると確信できました。

今回「Delight U」に参加した方々は、参加前と比べてどのように成長したのでしょうか。

石坂さん: 人によっては相当伸びていますね。もともとデザインのセンスがあったり、配置がうまかったり、配色センスがあったり、企画が得意だったりと、やる気のある人たちはそれぞれの持っている特徴を、うまく伸ばして成長していました。
最終的には、プロとして仕事ができるレベルになっていたと思います。

上田さん: 最終課題で制作してもらったプロダクトは、ポートフォリオにも載せられるようなレベルの高いものばかりでした。提出した課題に対してすべてフィードバックしているので、それをしっかり反映していれば、次のキャリアにも絶対繋がると思います。
実際に、「Delight U」に参加して新たなスキルを身につけたことで転職に成功した方もいますし、「Delight U」で制作した作品が高評価で、転職のオファーを複数いただいた方もいたようです。

今後どのように「Delight U」を展開していきたいか教えてください。

松村さん: 今後改善したいことは、一緒に学んでいる「仲間」が発表会に集まるまでわからない状態だったので、参加した数名から“孤独だった”という声を聞きました。一緒に学ぶ仲間の存在をもっと感じることが出来れば、もっと楽しく継続して学べたのではないかと思います。
なので、次回やるとしたら、週1回ほどリアルな教室を開放して、来たい人が集まって一緒に勉強できる場をつくれたらと思っています。
クスールは教育の場を提供している学校なので、今回の「Delight U」の知見を今後も活かしていきたいと思っています。

石坂さん: 出来るだけ多くの人にこの場を提供したいと考えていますが、沢山の人に教えるとなると手薄になりがちで、結果として「Delight U」らしさがなくなってしまう可能性があります。
ですが、日本のUI/UX業界を活性化するには、より沢山の人に学びを提供していく必要があるので「Delight U」をそのまま単体でやるというよりも、教材やメソッド、教えるための精神性は変えずに、イベントやワークショップ、学生向けのスクールなど、オンラインやオフラインで派生したプロジェクトを立ち上げていき、いろんな形で学びに触れる機会を増やして、本来わたしたちが目指していた価値を、より広く伝えていくことができたらと考えています。

これはまだ始まりの一つで、UI/UXを教える機関や教材は、今の日本には定まっていません。「Delight Uで学べば、UI/UXデザイナーになれる」業界を引っ張るプロジェクトの一つになれば良いと思っています。

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松村さん、上田さん、石坂さんお話ありがとうございました!