デザイン×AIのチャレンジfontgraphyの振り返り・結果報告
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デザイン×AIのチャレンジ
fontgraphyの振り返り・結果報告

こんにちは、DeNAデザイン本部の渡辺/佐藤です。
2019年9月にリリースした「fontgraphy(フォントグラフィー)」ですが、2020年7月にサイトの公開を終了しましたので、この機会に振り返りも含めて、このチャレンジで学んだことや結果のご報告をさせていただきたいと思います。

まずは「fontgraphy」とは?

簡単に説明すると、人の声の特徴をAIが分析し、その分析結果によってフォントとイメージ画像を選定、さらに掛け合わせることでオリジナルグラフィックを生成するというものになります。下の図をみていただくとより理解できると思います。

実際のUIはこんな感じになります。

「fontgraphy」の斬新なところは、「音声と画像を掛け合わせる」ということです。例えば、声を入力したらその声に合った顔の画像を生成してくれたりします。研究においても最近になってやっと手がつけられ始めた分野なので、面白いチャレンジだったと思っております。

詳しい技術的なとこをもっと知りたいという方は DeNA Engineer's Blog に掲載しておりますので、是非見てみてください。

このプロジェクトはどうして生まれたのか!?

2019年3月に、DeNAが創業20周年を迎えたのですが、それを記念したロゴを作ろうというプロジェクトが発端だったんです。DeNAは創業が1999年で、インターネットやPCの普及、ガラケーからスマホが登場してという時代の流れとともに成長してきた会社なので、そこからさらに未来に向かっていくことが表現できればと思い、なにか新しいものを作りたかったんです。そこで注目したのが、AIです。

また、20周年のキャッチコピーは「主役になろう」。どんな人でも強みをもっていて、誰だって主役になれるんだというメッセージでした。この想いをロゴに込めたかったので、社員全員の個性を活かしたパーソナライズされたものにしたかったんです。
顔認証や筆跡というアイディアも出たのですが、ユーザー体験として面倒に感じてしまうことは極力排除したかった。そういう意味でも声を入力し人それぞれのグラフィックが生成できるというのはとてもシンプルだと思い、声×AIの方向性に決まりました。

リリースまで立ちはだかった2つの大きな苦悩

苦悩 1

AIと聞いて最初から人間みたいなことができるのではと思ってしまう方も多いと思いますが、実際にはそうではなく人間同様に学習が必要なのです。そこで、最初のステップとしてAIに学習させるためのデータを集めるというところに着手しました。AIが判断するためのパターン(材料)を集める、とイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。
今回音声を分析するということをAIに学ばせるために、DeNAの社員800人から声の音声データを集め、次のステップでそのデータを人手により8属性毎に声の印象で評価し、学習済みモデルを作成しました。これは本当にマンパワーを要し、修行のような作業でした。

収録した声を8属性毎に評価していくために制作したツール↓

苦悩2

2つ目は本当にクリティカルだったのですが、実際に進めてみるとAIが生成するグラフィックのクオリティーがなかなか上がらなかったということです。

制作過程の初期の段階で出来上がったグラフィック例↓

社内で初めて見せたときには、マスクをしているだけに見える、これは世の中に出していいレベルではないんじゃないかという意見もありました。このときは本当に、このプロジェクトが頓挫してしまうのではないかとすら思いました。。
ここから、どうしたらもっと良い感じなるか、何度もAIチームとデザインチームで試行錯誤し、最終形に落ち着きました。

最終的に出来上がったグラフィック例↓

デザインのクオリティーっていう観点で評価すれば様々インプットはあると思いますが、AIが作るということ、またその出来上がる過程をモーションで見せるという方法でチープに見えない演出をMIXし、着地をさせました。デザインの話は次の項でも詳しく話をして行きますね。

デザインコンセプトは、「観測可能な宇宙」
大切にしたのは、AIが創るグラフィックの過程

上記の苦悩紹介のとこでも記述しましたが、声を8個の印象タグに振り分けたのですが、AIはこの8個の属性、AI的に言うと8次元あるものを、フォントとスタイルの2種類を掛け合わせることでグラフィックを生成しています。ですが人間は3次元でモノを捉えるので、8次元を認識することはできません。

どうすれば人間にわかりやすく、AIが自分にあったフォントを探しているということをビジュアルとして伝えられるかと考えてたどり着いたのが「観測可能な宇宙」のイメージでした。僕らが住む宇宙も実際には3次元以上の次元を持つと言われていますが、人間はそれを知覚することができない。それでも人間が宇宙を3次元の表現の中で星を観測しているように、AIが自分に合ったグラフィックを見つけてきてくれる、というコンセプトです。

ここが決まると、サイト全体のデザイン、UX/UI、モーション・演出等全でスムーズに決まって行きました。

最終的に出来上がったサイト : 動画↓

結果サマリー

期間合計で約27万人程のお客様に体験していただき、この取り組みを通じてDeNAブランドに興味を持ったという方の声も聞いておりますので、ブランディング観点では効果的な施策になったと思っております。
また、何よりTwitterの投稿からも自分の声が分析されて、「自分の声ってこんな感じなのかー!」という発見が刺さっているようで、純粋に楽しんでいただけたというのは本当に嬉しいことだなと実感しました。

2019年9月リリース直後はやはりオウンドメディアやプレスリリースからの集客、2019年11月に少しスパイクしているのは意外でしたがとある台湾メディアに掲載されてからそこから台湾ユーザーからのアクセスが若干増えたというところになります。

何より、その後ほとんどアクセスがなかったのですが、2020年5月に大きなスパイクがきております。これは、影響力のあるTwitterユーザーさんから拡散し、その後には多くのフォロワーを持っているVTuberさんにも広がり、一時的ですがバズを起こすことに成功したというところです。ほんと、これに関しては、予想外でかつ、嬉しいニュースでした。

また、オフラインでは渋谷ビットバレーでのリアル展示を通して、DeNA採用候補者にリーチできたりとそういった面では採用関連には少しですが貢献できたのではと思っております。
(コロナ禍でイベントが軒並み中止になり渋谷ビットバレー以外は出展できませんでした。予定では、デザインスクランブル等での展示も予定しておりましたが、そこは叶わずでした。。)

デザイン×AIのチャレンジで感じたこと

今回のプロジェクトを通して感じたことは、まずはAIが作ったものはプロのデザイナーが作ったものに、直近の未来では置き換えられないだろうということです。

AIが人間の感覚を完全に模倣するのはやはり難しく、AIで作れるものはインスタント食品のような感じかなと思います。ただ、素人でもパッと作れて、それを組み合わせたら新しいものが出来るので、ある分野を突き詰めたプロが作るのとはまた別のものが出来上がってくるのだと思います。

また、AIや機械学習にできることは過去の事例の蓄積の補間だということだと思いました。でもデザイナーは、時には過去の事例の逆張りができる。トレンドがこうだから、逆にこっちを採用してみようというような。AIや機械学習は過去の事例を積み上げ、ものをつくることはできても、今までにない新しいものをつくることがすごく苦手なんだと思います。
過去事例にとらわれない、アイディアは必ず成功するわけではないですが、当たる可能性もあります。これは今のところ人間にしかできない能力だと感じました。

過去事例等のデータが多々活用される時代に、もちろんそれをベースに判断して行くということも重要ですが、判断する前にもう一度人間らしく、0ベースで考えてみるっていうことがデザイナーとして重要な仕事になってくると思いますし、それが次の時代の扉を開くきっかけになるのではと思いました。

今後もDeNAデザイン本部では、デザインとAIのチャレンジは模索していきたいと思っておりますので、楽しみにしていてください。
最後までお読みいただきありがとうございました!