VOICE AVATAR 七声ニーナ キャラデザ編
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VOICE AVATAR 七声ニーナ キャラデザ編

 こんにちは。いわさです。

 VOICE AVATARのプロデューサーそして、キャラクター等のIP(Intellectual Property)としてのクリエイティブディレクションを担当しています。樋口さんからの掛け声で、今日はDeNA Designにお邪魔して、キャラクターIPとしてのクリエイティブディレクションについて、自分の経験や考えを書かせていただく事になりました。

​ このエントリーでは、先日リリースされた『VOICE AVATAR 七声ニーナ』(以下、七声ニーナ)をモチーフに、以下のようなことをお伝えしていきたいと思います。

  • キャラクターデザインの設計の骨組み
  • キャラクターデザインの制作の流れ

1.キャラクターデザインの設計の骨組み

 わたしはこれまで、いくつかのキャラクターIPをプロデュースしてきました。Mobageのマスコットキャラになった「モバミちゃん」や、ニュースアプリがTVアニメになった「ハッカドール」、またモバイルゲームの「トリカゴ・スクラップマーチ」等です。

 最初の頃はかなり手探りでしたが、「ハッカドール」でPVをアニメスタジオTRIGGERの皆さんと作った事が切っ掛けで、クリエイターの方々と膝を突き合わせて仕事をした経験から、だんだんと自分なりの方法論が決まってきたように思います。その話をします。

 プロデューサーやクリエイティブディレクターとして、キャラクターIPをゼロから考える際、いろんなテクニックとか考慮ポイントがあると思いますが、一番のスタートポイントは、『このキャラクターを通じて、ターゲットユーザーにどんな感情体験を提供したいか?』です。感情体験は何か?という問いについて、わたしは3つの軸で考えています。

A)共感 - 自分との接点になるような、境遇、性格、執着、弱点がある。
B)知的好奇心 ー おもわず興味が出る理性的・知性的興味をかきたてる情報がある。
C)本能 - 小さいものは可愛い。等の官能的訴求がある。

 このフレームワークは特別ユニークなものではないと思います。小説やシナリオの教本にもよく書いてあるし、ものづくりをしている人ならなんとなく感じている事だと思います。
 七声ニーナでは、こんな感じです。

共感 - 自分には出来ないことが多い、その不完全さ・ポンコツさ。しかし「不完全で当然では…?」という、少しずうずうしい性格(が小気味良い)そういう点からくる親近感を感じてもらいたい。そういう感情が想起される等身大のキャラクターにしよう!

知的好奇心 - AI・ロボット的なギミックをさりげなく感じさせるルックスと設定にする。アイデアとして、共感要素として「ポンコツ」と言ってるので、ハッカドールシリーズ(とてもポンコツな子たち)であるという事と、さりげないメカ娘ならではの、人間らしさと機械っぽさの境目が、ハッカドールのNEXT(もしくは復活)を待つ人たちに、そしてSF的な知的好奇心を求める方にとって、興味関心を掻き立てられるキャラクターにしよう!

本能 - AIなんだけど人間っぽい姿。人工的だけど生っぽい姿。そういうバランスの成立するラインの性格とルックスにしよう。ちょっと冷たい感じ。でも機械的ではない低めの体温が感じられる応対や表情。そういう存在を愛でたい気持ちを想起できるようにしよう!

 こんなかんじです。ややもするとキャラクターデザインやIPのデザインは、記号的表現(萌えキャラ!とかイケメン!とか男の娘!とか)をパズルのように組み合わせて作るんじゃないか、と思われがちですが、イメージ的にはそこから1~2階層抽象的に考えていきます。

では、これをベースにしたキャラクターの設計資料はこんな感じです。

キャラクター設計資料

 いろいろキャラのコンセプトを決めますが、これは細かく決めている方です。もっとおおまかなケースもありますが、可能な限りディレクターにイメージが具体化されているほうが好ましいと思います。

 キャラクターデザインは試行錯誤を伴うからこそ、「正解のラインがわかっている」事、案を出しまくった上で「これは違う」「これが近い」とランダムウォークで正解を探る事を避けて、デザインの正解を手触りをもって検証的確認ができること、が大事だと考えています。

 その土台の上で、クリエーターさんが好み、得意技を活用し、驚きや持ち味あるクリエイティビティが発揮されることが、自分の目指すモノづくりです。

 ……と、次に進む前に、「ハッカドール」と「七声ニーナ」の関係性について、上述の説明はあまりにも夢も浪漫もないんじゃないか、なにかコンテンツ的な繋がりはないのか?という疑問がある方もいらっしゃると思いますので、その点を補足します。

 ハッカドールのキャラクターたちは、サービスが終った後どこに行く(べきな)のか?という疑問は自分の頭の中にもありました。一度、コミックス版のドラマCDで、ハッカドール1号・2号が引退後アパート暮らしをしていて…というお話を書いたことがあります。(個人的には気に入っている話です。)あれがトゥルーエンドで「おしまい」という事なのか?

 展開が一度終わったコンテンツは、どうあるべきか?……自分なりの結論は「(一般論はわからないが)彼女らは機会があれば、直接的・間接的に登場してくるような図太い子たちばかりだ」という事でした。何度危機があっても図太く生き残っていたので、そういうもんだろう、と。「水曜どうでしょう」で、大泉洋が番組最後の旅の中で「一度終わってしまえば二度と終わる事がない」なんて言ってましたが、図太いコンテンツは終わらせようったって、なかなか終らないんだ、と。

 そんな何かが状況を少しずつ動かして、「七声ニーナ」は「ハッカドール」を色濃く受け継ぐことになりました。ただ単に昔のあのコンテンツをそのままの姿で引き継ぐ事にこだわらず、良い形で継承を感じてくれるならば、それこそデザインの成功だと思います。当時ハッカドールを応援してくださった皆さんに届いて、そういった感情体験を味わっていただければ、わたしはとても嬉しいです。(はい、ここまででハッカドールの話は終了。これ以上すると、寝た子を起こすからね。)

2.キャラクターデザインの制作の流れ

 さて、設計図は決まりました。

 ここからキャラクターのデザイン図を起こしていきます。流れとしては、オーソドックスにラフスケッチを起こして、それをベースにデザインを具体化していきます。それを細かく見ながら、ラフスケッチを題材にして、ディスカッションしたりする流れです。

 当時の発注資料ではこのような説明を記載しています。

発注資料1
発注資料2

 資料ではいろんな事を書いていますが、制作プロセス上、自分が大事にしている事はまとめると次の通りです。

①要件として渡すもの、クリエイターに裁量として渡すものの明確なキメ。

 自由度の設計…ともいいますが、相手のクリエイティビティに頼るべきところと、こちらのディレクションを優先してもらうべきところが事前にわかる事で、デザイン上の自由度がお互い摺り合いやすくなり、お互いのクリエイティビティの活躍する範囲がぶつかり合うのを(完全にではないですが)コントロールすることができます。

 チームで、パートナーで、複数人で、1つのものづくりをする上で重要な要素だと思います。単純な「指示⇒作業」ではなく、お互いの強みや役割を総合するためにも、お互いの責任範囲を、正確・明確に定義し、同意します。

②半分以上はコミュニケーションプロセス。

 スケッチをみつつ「ここは素敵だと思う。」「ここは他案件ならGoodだが今回は目的上使えないと思う」「ここ、いい筋だから少し変えながら正解を見つけたい」「これは要件通りにせっかく書いてもらったけど外しましょう」を、どこまでお互い同じゴールイメージを持ちながら意思疎通できるか?には、コミュニケーションに時間を投資する事が大事と考えます。

 今回は、discordやzoomを使って、半ばダベりながらも、お互いタブレット上で描いたラフを見せあって何度も、週に複数回、長い時間話し合いました。

③こだわりや試行錯誤の期限の感覚を持ち、守る。

 クリエイターとしてこだわりたいポイントは当然あります。試行錯誤しつつ最適なデザインを生み出すためには、時間が……当の本人にも予測できない場合が多いほどの時間がかかります。(そしてその熱意や職業的追求は素晴らしいことです)

 ディレクターの役割として欠かせないのは、全体の残り時間を考えてこだわれる時間を決めて、その中で見つかった答えや形をもって「そこはもうこだわるのやめましょう。今の案で行きましょう」と決めてあげること。忘れられがちですが、非常に大事なポイントです。有限の時間のなかで、現実的到達可能な品質の最高点を目指す、その責任を負うためには「ここで打ち止め。次に行きます」という時間的猶予の計画的配分が欠かせません。

 こういったポイントを意識しつつ、七声ニーナでは、こんな感じでデザイン案を段階的に固めていきました。

初期スケッチ

 イラストレーターさん(鉄花まきさん)とスケッチを何段階かやりとりしました。たとえば初期段階に近いものはこういった形です。1段目をもらい、2段目で幅を確認しつつ話し合い、右端の三つ編みの造形にした上で、3段目でシルエットを考えています。

 この時点ででてきたスケッチを見て、一気に「これだ!」とほぼ決定稿が出る場合もあるのですが、ニーナの場合は「トップヘビーなシルエット」を料理するうえで、特にヘッドパーツのバランスに難航しました。

 ですので、一度アイデアの発散をするべく、バリエーション提案を広めに頂く事にしました。(ただし、バリエーションの変数はヘッドパーツに絞っています。)

スケッチバリエーション

 こうやって見てみると、例えばゲームならロングショットでもシルエットの見分けがつきやすいC・E・Gが良いとか、戦うキャラクターなら強さや戦い方が形態から想像しやすいH・Jが良い、等、キャラクターのタテツケや用途によって「正解」は異なる事がわかります。こういった「百聞は一見に如かず」な点を確認しつつ、狙った感情体験をキャラクターに埋め込んでいるものに絞り込んでいきます。「D」案を今回選んでいます。

 バリエーションを提案頂いて、そこから選ぶというやり方はわたしは、基本的にあまりしません。バリエーションを出すことが目的化してしまいがちですし、クリエイター側もひとつひとつに真剣に取り組めなくなります。ですので、1~2案に対して、フィードバックを行うことで、一歩一歩正解に近づけていくプロセスをとります。

 フィードバックを行う際は、テキストベースであれ口頭であれ丁寧に伝えるとともに、可能な限り具体的に修正イメージ図を提案するようにしています。「この通りにしてください」という意図の時もあれば「狙いを形にした”例”です」の時もありますが、基本的には後者のつもりで、なるべく頭の中のイメージを誠実に伝えるようにしています。

 そこを隠して「(頭の中の正解をなるべく引き当ててくれ・・!)」のような駆け引きは不要と考えています。

初期スケッチ

 こういったFBによるデザインのブラッシュアップを経てつくられた決定稿のデザインは、こちらになります。

初期スケッチ

 デザインの個別のデティールの解説は割愛しますが、顔立ちや色合い、細かな造形によって、しっかりと狙った感情体験を想起させるものにできた、と思います。

 …スケッチと色遣いが違う?はい。そうですね。カラーリングも非常に変数の多い要素です。今回はデザインの最終局面で、カラーリングのバリエーションを試して検討しました。

初期スケッチ

 一見おしゃれで素敵なカラーもありますが、そこはヘッドパーツのバリエーションと同様に、タテツケや用途、媒体(主な登場媒体がカラーか白黒か、1枚絵中心か動画か、手書きアニメか3Dか)で色味を選ぶべきと考えます。また、色味の組み合わせには一定の法則があるため、どうしても既存のキャラクターとの被り感も出てきます。その点も意識してバリエーションを考えたうえで1つの案を選びました。

 小さなテクニックとしては、カラーバリエーションを考える際、ベースカラー・アクセントカラー等の色面積の比率や色相環上の補色関係等のテクニックもありますが、それ以上に「色の組み合わせにどんなテーマを持たせらえるか?」を考えるようにしています。

 例えば、上記のカラーバリエは私の提案なのですが、上段左から2番目のテーマは「夕方パープル」ですし、下段のテーマは左端から「EV◯零号機」「わたしドラ◯もん」等…、です。どこがドラ〇もん!?となると思います。いいんです。あくまでも着想の幅を出すためのインスパイアがあれば。やってみて気付く事もあります。なんていったって、2段目右端のバリエーションは、海苔の佃煮の「ごは◯ですよ」が着想の元で……目の前にあったから追加したんです。このカラーリングだったら、わたしはニーナを見るたびに白飯が想起されることになったことでしょう。

 こうして最後にカラーバリエーション候補から1つ選び、そして三面図や細かいパーツの質感などを決め込み、キャラクターデザインについては完了しました。

 今回は1名分単体でのキャラクターデザインでしたが、例えば4人~10人とコンビネーションや関係性、デザイン的差異を意識しなければならない場合は、他のキャラクターとのバランスから、振り返ってデザインを見直したり、目指す感情体験の設計から、キャラクターまるごと没にして見直すケースもあります。

 このような気の遠くなるようなプロセスに付き合っていただき、根気よくスケッチを描き、ディスカッションし、そしてデザインの細部までこだわってくださった、七声ニーナのキャラクターデザインを担当してくださった 鉄花まき さんに心より感謝しています。

 さて、ここまでで私のキャラクターデザインに関するお話は以上です。キャラクターを生み出すという「0⇒1」のプロセスの事例をお伝えしました。もしかしたら、キャラクターのディレクションだけでなく、Webサービスや、ゲームタイトル、その他プロダクトを生み出す事全般にも応用できる話かもしれません。そういったものづくりに携わる皆さんの参考になれば幸いです。